
| 殺陣でもっとも優先されなければいけないことは「安全に行う」ということです。迫力ある殺陣を演じるのも大切なことですが、そこで怪我をしてはなんにもなりません。ここでは安全に殺陣を稽古するために最低限守らなくてはいけないルールをご紹介します。
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切っ先が共演者に当たりやすい一番危険な時(正に「魔の時」です)は、木刀を振りかぶる時です。要するに木刀を「振りかぶり過ぎ」てしまうわけです。この危険を回避するために、殺陣の素振りで上段(頭の上)に振りかぶる時は、刀と床との角度が45度より下に行かないことが大原則となっています。皆さんも基本の素振りの段階からこのことを常に意識して、徹底的に身につけるようにしてください。
これが「振りかぶりすぎ」 これなら安全です


塾長が今までに殺陣指導した舞台を見たことがある人は、ここで「おや?」と思うはずです。なぜならその中で繰り広げられる殺陣の手のほとんどが、剣を背中まで大きく振りかぶっているからです。それは迫力を出すために「わざと」振り付けたもので、他の共演者との距離とタイミングを綿密に計算した上でのものなのです。また最初から「45度の振りかぶり」を練習させると、剣道経験者以外は必ず振りが小さく小手先の素振りになってしまうため、当教室の基本では補強として背中まで大きく振りかぶる素振りも行っています。(振りかぶりは基本編・素振り「正面斬り」を参照してください)
振りかぶりの次に危険な「時」は、刀と刀を合わせる時(相手の攻撃を払う、受け止める等)です。刀と刀が直に当たった場合、竹光なら刀身が折れて客席に飛んでいったり(実際に舞台で本番中に起きたことです)ジュラルミンならぐにゃっと曲がってしまう(小道具さんが泣きますね)等の事故が起きてしまいます(木刀で稽古しているうちは余り問題ではありませんが)。もちろん刀が痛まないようにと力を抜いて適当に当てていれば問題ないのですが、お客さんから見てなんとも気の抜けた殺陣になってしまいます。ですからプロは刀と刀を当てるときには「お客さんから見てものすごい力が入っているようにみせて、実は刀が折れない(曲がらない)程度に力を抜いてコントロールしている」という高度な「演技」をしていますし、角度的(角度についてはテクニック編「距離と角度」を参照してください)にお客さんにばれない時は完全に「寸止め(もともとは空手の用語で、刀と刀が触れる直前で止めること)」をしているのです。
ではみなさんの場合どのような順番で稽古を進めるのが良いのでしょう。当教室においては初心の内に扱う得物(武器)は木刀と限られていますので、刀と刀を打ち合わせたときの「感触」を肌で覚えて貰うために、殆どの場合当てさせています。そして次第に上達して得物に竹光やジュラルミン製の刀を持てる段階になると「寸止め」で稽古をするようになります。寸止めは以外に難しく筋力もある程度要求されますが、確実にできるよう稽古を重ねます。寸止めが完璧にできるようになった段階で例の「お客さんから見てものすごい力が入っているようにみせて、実は刀が折れない(曲がらない)程度に力を抜いてコントロールしている」当てを稽古します。しかし皆さんは学園祭等本番の期日が決まっているわけですから、木刀で当てる稽古をしながら「寸止め」も平行して練習するのがベストではないでしょうか?いずれにしても、先ずは基本の素振りをしっかりとやり込んで、刀のコントロールを自在に出来る様になることが先決です。
人を斬る演技の場合も同じで基本的には当てません。演技者と観客(映像の場合はカメラ)の位置関係を考慮して、観客からは当たってないことがバレない角度で刀を振り抜けばよいのです。もちろん演出上わざと「刀を人に当てる」ことは多々あります。これはほとんどの場合衣装の下に防具なり雑誌の束なりを忍ばせているものですが、当然のように斬る(当てる)人間はその防具の上を正確に斬ら(当て)なくてはいけません。簡単そうに思えますが初心者だと胴を斬るつもりで刀を振ったら太腿を斬っていたなどということは本当によくあることで、基本がしっかり出来た人でないとお勧めできないテクニックですね。
殺陣を安全に行うために先ず身につけなくてはいけないこと。それは刀の扱い方等ではなく「声をかける」ということです。
剣道の打突、空手の突き蹴り等武道の技は、それを出すと「同時」にかけ声(気合い)をかけますが(殺陣でも基本の素振りは同じです)、殺陣の立ち回り中のかけ声は技を出す「前」に発します。というのも、それが共演者に対する「私が今から掛かります!」という合図になるからです。例えば立ち回りの「手」(振り付け)の中には相手の背後から掛かっていくというものも多いですが、その時に合図無しでは超危険ですね。また合図のタイミングが技と同時では後ろ向きの相手にとって「間」に合わないのです。
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先ずは声がけ
「エイッ!!」 の気合いです! |
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そして振りかぶり
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斬り下ろします
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遠い間合いでも、先ず声がけから!
(写真では見えにくいですが、叫んでいます) |
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そして発進!!
間合いを詰めます! |
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斬りつけます
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さて殺陣におけるかけ声は前述の通り合図でもありますが、演技を構成する重要な要素でもあります。殺陣とは「闘いの場面」の表現ですから殺気、闘気等いわゆる「迫力」をも表現しなくてはいけません。それを表現するのに一番基本となるのが、かけ声(気合い)なのです。もちろん「静寂の中に迫力を醸し出す渋い殺陣」もありますが、それは上級のテクニックです。みなさんの場合は先ず大きな声を出せるようにしてください。それが「渋い殺陣」への第一歩にもなるのです。
気合いに関しては上達心得「声を出そう!」を参照してください。
「集中する」ことは殺陣に置いて、安全に怪我無く、しかも迫力ある演技をするための必須条件です。集中とは心の問題ですが、集中が出来ていないときには必ず身体にそれが現れます。具体的には視線(基本編・素振り「目付」の項参照)が定まらない、顔の表情が崩れる(笑う、自信のなさそうな顔をする)、刃筋がぶれる(これは上達の度合いとも関係ありますが)等です。これらの身体的な崩れは非常に危険なことであり、事故を招く原因になります。そしてその集中度にはかなりの個人差がありますし、集中できていない人にはそれがほとんど自覚されて無いことが問題になります。当教室でも「もっと集中してください」と注意をすると、「えっ?私集中してるのに」とでも言いたそうにキョトンと見返す道場生が多くいます。「頑張っているぞ〜〜!!」という本人の主観と、きちんと集中出来ているかどうかということにはしばしば大きな隔たりがあるようです。それでは具体的にどのような集中をすれば良いのでしょうか。それは凶器を手にしているという緊張感と、僅かの恐怖心を常に持つということです。木刀の刃の部分がおでこに当たったくらいではタンコブが出来る程度でしょうが、もし切っ先が目に当たったとしたら大変なことになります。つまり、たとえ木刀や作り物の刀でも、使い方を誤れば立派な凶器になりうるのです。集中出来ていない人達にはこの自覚が足りません。頑張って稽古をするのはよいのですが、調子に乗りすぎて木刀の扱いがつい「ぞんざい」になってしまいがちです。楽しく活気に満ちた稽古の中にも、適度な集中は忘れないようにしましょう。

さて、集中の大切さは分かったとしても木刀は木刀、そんな緊張感などなかなか持てるものではありません。ここでちょっとしたイメージトレーニングをお教えします。今この場でパソコンに向かったまま試してみてください。まずは木刀を持って友達と向かい合っている状況を思い浮かべてください。そう、今は殺陣の稽古中です。次に持っているものを真剣(本物の刀)だと想像してください。もちろん相手も真剣に持ち替えています。どうでしょう?少し緊張してきましたか?ですがほとんどの人は真剣など見たことも触ったこともないはずなので、いまいちピンとこないでしょう。そこで今度は、真剣を台所にある包丁(柳刃包丁などが良いですね)に替えてみましょう。身近にあるものだけにイメージしやすいですね?一気に「身が引き締まった」のではないでしょうか?想像力豊かな人なら寒いものが背中を駆け抜けて、手にじっとりと汗をかいたと思います。そうです、これなんです!これが殺陣を稽古するときに必要な緊張であり、この緊張を持続し続けることが集中なのです。
ちょっと恐いイメージトレーニングですみませんでした(^_^;) ですが殺陣の持つ危険性を少しでも理解してもらえたのではないでしょうか?あとこのイメージトレーニングを現実化することは絶対に止めてください!ナイフや包丁を実際に構え合うなどということはプロの武道家の行う稽古です。初心者のみなさんはイメージトレーニングだけで十分です。また、自宅に観賞用の日本刀がある人も安易に抜いたり、ましてや構えたりしてはいけません。真剣を持つのは、居合道(その他の武道も含む)を稽古している人でもある程度実力が付いてからと決まっていますので。